国際フランコフォニー学会世界大会報告 [報告]

国際フランコフォニー学会世界大会報告

国際フランコフォニー学会 第25回世界大会 参加報告
Conseil International d’Études Francophones (CIÉF)
25e congrès mondial, 29 mai-5 juin 2011, Aix-en-Provence
プログラム:http://www.cief.info/congres/2011/documents/Programmefinalweb.pdf

 2011年5月29日から6月5日まで、南仏エクサンプロヴァンスのCité du Livreを会場にして国際フランコフォニー学会(CIÉF)第25回世界大会が開かれた。AJEQ会員からは、昨年に引き続き小畑精和と小倉和子が、そして今回から立花英裕と加納由起子も参加した。グァドループの作家Daniel Maximinの情熱あふれるスピーチで開幕した大会は、7日間にわたって90近い分科会に分かれ、350名以上の研究者たちの発表が行われる大規模なものだった。テーマは、移民文学、フランス語圏各地域の文学、女性作家、映画、旅行文学、言語学、フランス語教育など、この学会の定番メニューに加えて、今回は土地柄Le Clézioや、先頃亡くなったマルティニックの作家Edouard Glissantに関するものも多かった。

 まず、小畑が主宰した5月30日午後の第5分科会 « Mémoire individuelle et histoire officielle : le cas d’Aki Shimazaki » (Président : Yoshikazu Obata, Université Meiji) では、加納が « Le mythe du bilinguisme littéraire : le cas d’Aki Shimazaki » と題する発表を行った。シマザキの創作言語に対する立場と、その作品の特性の新しさを、フランス語現代文学の代表的「バイリンガル作家」、あるいは「亡命作家」(特にクンデラとクリストフ)と対比させることで、浮かび上がらせようとした。

 それぞれ論点は異なるが、各発表者とも、日系ケベック作家としての特異性を探るのではなく、移民作家として、あるいは日本語を離れて別言語で書く移動作家としてアキ・シマザキ作品をより一般的な視点からとらえようと試みていた。

 翌5月31日午前の第5分科会 « Exil et retour dans l’écriture francophone » (Présidente : Lucie Lequin, Université Concordia) では、立花が « Quête d’un royaume chez Aimé Césaire et Edouard Glissant » という発表をした。1950年代後半のフランス海外県におけるポストコロニアル的状況を参照しながらエメ・セゼール『帰郷ノート』とグリッサン『レザルド川』を読み比べることによって、文化と政治の問題を捉え直そうとするものだった。

 また、小倉も同じ分科会で « Voyage et retour chez Dany Laferrière » と題する発表をした。ハイチ出身モントリオール在住のラフェリエールが、父親の死をきっかけに33年ぶりに帰郷した際に書いた(とされる)自伝的小説を取り上げ、オデュッセウスや芭蕉の旅とも比較しながら、「帰郷」の意味を探った。
この分科会では、韓国ケベック学会からJonghwa Jinも参加して、主としてカリブ海に関わる作家たちの亡命と帰郷のテーマが扱われたが、それにVéronique Tadjoなどコートジヴォワールやセネガルの作家に関する発表も加わり、テーマの一貫性と広がりについて会場から好評をいただいた。

 分科会の他にも、レバノン出身で、現在はケベックで活躍する劇作家Wajdi Mouawad原作の映画Incendies(『焼け焦げるたましい』)の上映会と、それに関するラウンドテーブルを初めとして、多数の催し物があり、どれも手応え充分だった。

 極めつきは、会長がフランス領ギアナから連れてきたアーティストたちによる詩の朗読や歌と踊りの夕べ。民族衣装に身を包んだ出演者たちの情熱溢れる舞台の後には、香り豊かなラム酒やデザートが供され、南米大陸の片隅にあるこのフランス語圏地域について知るまたとない機会となった。

 会場のCité du Livreは図書館と文化センターが一体になった複合施設で、元はマッチ工場だった場所だという。Méjanes侯爵の寄贈による中世の写本やユダヤ教の教典などを多数所蔵するプロヴァンス地方の文化的中心地である。
 2012年はギリシアのテッサロニカで開催されることが決定されている。韓国ケベック学会会員やケベックの研究者たちと共催で、またいくつかのセッションを企画したいものである。
(小畑精和・立花英裕・加納由起子・小倉和子)

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