特集「ケベック州議会選挙解説と雑感」意見4 [特集]

特集「ケベック州議会選挙解説と雑感」意見4

9月26日掲載:

4. 荒木隆人(京都大学大学院、ケベック大学モントリオール校):

ケベック州選挙についての雑感―ケベック党が直面する課題―

荒木隆人
京都大学大学院法学研究科博士後期課程
ケベック大学モントリオール校政治学研究科修士課程

 去る2012年9月4日に実施されたケベック州の州選挙では、ポーリーヌ・マロワ党首に率いられたケベック党が125議席中54議席獲得し、50議席獲得したケベック自由党を破って第一党となり、9年ぶりに政権復帰した。周知の通り、ケベック党は1968年にルネ・レヴェックによって結成されて以来、主権連合を根本綱領とする政党である。今回の選挙でケベック党が第一党になったのには、様々な要因が働いているだろうが、今年2月にラヴァル大学とケベック大学の学生組合を発端とし、労働組合や一般州民にまで拡大した大学の学費値上げ反対運動に対して、ケベック党が学費値上げ凍結を公約として打ち出すことで運動の取り込みを図ったことが大きな要因の一つであったと言える。従って、州民は何よりもまずこの学費問題の解決の行方を見守ることになるだろう。9月19日に発足したマロワ新政権は早くもこの問題への積極的な取り組みの姿勢を示した。まず、新政権はその閣僚人事において、若干20歳の学生運動のリーダーの一人レオ・ビュロー・ブリュアン(Leo Bureau-Blouin)を議会秘書官に任命し、次に、政権発足初日となる20日には、大学の学費値上げに関して、今年度(2012-2013年)は値上げを実施せず、その後の年度については今後開かれる予定の教育問題についての頂上会議での討論の結果に委ねることを約束した。
 ケベック党の根本綱領である主権連合構想の実現についてはどのように考えられるだろうか。少数与党政権である現在では、主権レファレンダムの実施はすぐには困難であろう。他の政党との主権獲得に関する協力の可能性についてはどうであろうか。今回の選挙で19議席を獲得し、第三党となったCAQ(ケベックの未来連合)は、ケベックの主権獲得よりも小さい政府を目指すという経済政策の方に強い関心をもつ政党である。むしろ、主権獲得についてケベック党と協力する可能性があるのは、第四党である中道左派で主権ケベックを主張するQS(ケベック連帯)の方であるが、獲得議席数が2議席ということを考えると、ケベック党の54議席と合わせても、州議会で過半数に届かない規模である。加えて、昨年8月に実施された世論調査(the Leger Marketing Poll)によれば、ケベックの主権獲得を望む州民は全体の24%にとどまるとされている。従って、ケベック党にとって、主権連合構想は根本綱領であるには変わりはないとしても、学費問題解決を含む今後の難しい政策運営を切り抜け、州民の支持を強固にすることが先決の課題となる。とはいえ、主権連合構想を将来的な目標とする政党の政権復帰が、今後のカナダ政治に大きな影響を与えるようになるだろうことは否定できないだろう。

(京都大学大学院法学研究科博士後期課程、ケベック大学モントリオール校政治学研究科修士課程)


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。